「地域を巻き込むプロになろう!」セミナーⅡ・Ⅲ(講座レポート其ノ三)

地域を巻き込むプロになろう!
山口県県民活動中核的人材育成セミナー
NPO・地域コミュニティ・企業向け全5回

Ⅲ.社会課題解決に向けた企業ノウハウの活用
~プロボノファンドレイザーの視点から~
講師:小川 宏(おがわ ひろし)氏
<小川事務所・NGOファンドレイザー>

☆講座の詳細は以下の通り。

□今セミナーの目的
プロボノ・プロボノ活用の概要を説明し、興味を持ってもらい、一歩踏み出す助けとなる。

□目次
1.プロボノとは?
2.プロボノやプロボノ活用の事例紹介
3.プロボノやプロボノ活用の始めかた

1.プロボノとは?
プロボノとはラテン語で「公共善のために」を意味する Pro Bono Publico の略。
ビジネスパーソンが職業上の専門性・スキル・知識などを公共的な目的のために活用するボランティア活動のこと。

(具体例)
【専門性/スキル】…【プロボノ】
・法律・法務…………NPOの法律相談
・マーケティング……NPOのマーケティング、マーケティング調査
・営業…………………NPOのファンドレイジング、企業との協働推進
・広報…………………NPOのプレスリリース作成、メディア対応、イベント告知
・Web制作……………NPOのサイト構築、運営、更新
・デザイン……………NPOのパンフレット、チラシ、ポスター作成
・人事・総務…………NPOの組織基盤強化、運営マニュアル作成、法人格取得
・財務・会計…………NPOの会計、会計ソフトのカスタマイズ

◎専門性/スキルの数だけプロボノは存在する。
◎2010年は日本のプロボノ元年。TV、新聞等各種メディアでプロボノが紹介されている。

□プロボノとボランティア
・プロボノはボランティアの一形態。
・プロボノはボランティアに含まれる。

<共通点>
・自主的・自発的
・公共性・社会性
・無償性・無給性
・先駆的・創造的

<相違点>
・プロボノ…専門性、スキル
・ボランティア…時間、労働力

(例)
・弁護士:NPOの法律相談に乗る(プロボノ)、NPOで資料発送をする(ボランティア)など

☆プロボノ>ボランティア
専門性やスキルを活かすプロボノの方がNPOへの成果や社会的インパクトが大きい。
=社会課題の解決が促進される。プロボノ当事者の満足度も高い。

□プロボノが求められる背景
・NPOの人材不足、資金不足
…常勤有給職員数2名 年間収益1671万円(*中央値)
→十分な知識と経験等を保持した人材(プロボノ)が必要。

・個人の社会貢献に対する意識の高まり
…「ボランティアに関心がある」、「ボランティアの経験がある」人の割合が上がってきている。(※プロボノではなく、ボランティアに関する調査)

・20~30代で、NPO、ソーシャルビジネスで働いてみたいと回答する人が17%。
…「働いてみたい」層は「人や社会の役に立ちたいと思う方だ」、「社会的に認められる仕事や地位につきたい」、「自分自身の能力やスキルを高めたい」という意識が強い。

・企業に対する社会と従業員からの要請
…企業は社会からのCSRとして社会貢献活動を要請される。
…従業員からは従業員満足度向上やスキルアップ機会を求められる。

~CSRとは(参考:ウィキペディア)~
企業の社会的責任(corporate social responsibility、略称:CSR)とは、企業が利益を追求するだけでなく、組織活動が社会へ与える影響に責任をもち、あらゆるステークホルダー(利害関係者:消費者、投資家等、及び社会全体)からの要求に対して適切な意思決定をすることを指す。

□プロボノのメリット・可能性
・プロボノ当事者…自己成長につながる、仕事へのシナジー効果(相乗効果)など
・NPO……………経費をかけずにプロボノという外部の有効なリソース(資源)を活用できる。
・企業………………従業員がシナジー効果を発揮。社会貢献活動、従業員満足度の向上、従業員のスキルアップを同時に達成できる。新規ビジネスチャンス、企業イメージの向上。
・社会………………社会課題の解決が促進され、より良い社会につながる。

2.プロボノやプロボノ活用の事例紹介
①~小川さんの場合~
東芝グループでのオフィス機器の法人営業から子会社へ出向。
「マイクロソフトでは出会えなかった天職(ジョン・ウッド著)」という本に出合う。

Room to Read(ジョン・ウッドが創設した、識字能力の育成と、教育における男女の格差是正に焦点を当てることにより、開発途上国に住む何百万の子どもたちの人生を変えることを目指している国際NGO)のプロボノに協力を申し出る。

法人営業のスキル・経験を活かして企業と交渉し、NPOに寄付金をもたらす(寄付金、寄付金付き商品販売)。

ソーシャル系の知識・情報を掛け合わせNPOに寄付金をもたらすアイデアを考える。

「ブックバトンプロジェクト(会社や社員の自宅にある読み終えた本や、CD・DVD・ゲームを送ると、(株)バリューブックスによる買取り金額が国際NGO(Room to Read)に贈られる新しい寄付の仕組み)」を御社のCSR活動に取り入れませんか?と提案。
→「あなたの家に眠っている本で教育を届けよう!」

ソーシャル系の人脈・情報を活用し、NPOに寄付金をもたらす仕組みを導入。
→ソーシャルグッドプラットフォームのgooddo(グッドゥ)。
→「いいね!」や「クリック」をするだけで寄付金につなげる。

経験はなかったが、チャリティイベントの企画・開催や講演・セミナーなども行うようになった。
→社会貢献婚活イベント、ビール1杯につき100円を寄付(チャリティイベント)。

Room to Read 以外でもプロボノを行う。
→チャリティ麻雀大会を企画・開催。

□小川さんのプロボノストーリー
・プロボノに出会う前………二足のわらじに憧れ、仕事で挫折、価値観の変化

・プロボノに出会い夢中に…やりがいや生きがいを感じる

・プロボノからプロへ………ファンドレイジングの経験を積んだ

☆プロボノの結果として
・小川さん:充実感、ソーシャル系の人脈が増える
・東芝:寄付金付き商品販売導入
・NPO:経費かけずにファンドレイジング
・社会:途上国の地域社会に教育の機会

②~中島さんの場合~
大手広告代理店でのスキル・経験や富裕層との人脈を活かしチャリティパーティを企画・開催。

③~今西さんの場合~
外資系企業で培った英語のスキルを活用し、各種イベントで同時通訳(小学生の息子さんもファンドレイジングに挑戦)。

④~佐藤さんの場合~
大手電機メーカー組合事務局のスキルや“しゃべり”のスキルを活用してチャリティイベントを開催し司会も行う。

⑤~宮武さんの場合~
特技(本業ではない)のフラワーアレンジメントのレッスンを開催。レッスン料の一部を寄付している。

⑥~鬼澤さんの場合~
ビジネス法務のスキル・知識を活かして、NPOやソーシャルベンチャーを支援。

⑦~神代さんの場合~
映像撮影スキル・マネジメントの経験を活かしてNPOブラストビート(アイルランド発の教育プログラム)を支援。

⑧~鈴木さんの場合~
代表の鈴木さんとご友人がそれぞれの専門性を活かして、maggie’s tokyo(がん患者の居場所を作る団体)の資金調達や運営に携わる。クラウドファンディング(READYFOR)で2200万円調達。

~クラウドファンディングとは(参考:ウィキペディア)~
クラウドファンディング(英語:Crowdfunding)とは、不特定多数の人が通常インターネット経由で他の人々や組織に財源の提供や協力などを行うことを指す、群衆(crowd)と資金調達(funding)を組み合わせた造語である。ソーシャルファンディングとも呼ばれる。

□プロボノ活用事例紹介
①【Room to Read】
・登録されているプロボノ、サポーターは1000名以上。それぞれのスキル・特技に合った活動をしてもらっている。
・スキル、特技、人脈を活かして自主的に活動。
・事務局方針は、「プロボノを管理しない」。
・活動紹介ミーティングを開催、HPでサポーターを常時募集。

②【かものはしプロジェクト】…カンボジア、インドの児童売春問題を扱う。
・500名を超えるプロボノ、ボランティアにセミナー開催、ファンドレイジング、助成金申請、予算策定、広報など支援してもらっている。
・募集の説明会を趣向を変えて開催(時間帯を変えたり)。
・ターゲットを若手社会人、学生に絞っている。

③【ヒューマンライツ・ナウ】…アジア、日本の人権問題を扱うNGO。
・コンサルファームのコンサルタントにプロボノで経営計画や資金調達計画を策定してもらっている。

④【Fine】…不妊症関連NPO。
・プロボノマッチングサービスを上手に活用。某銀行のプロボノプロジェクトの一環で銀行員のプロボノメンバーが寄付金を増やす仕組みを構築。

3.プロボノやプロボノ活用の始め方

□プロボノの始め方

☆事前に自ら確認すべきこと
・自らのスキル、専門性、経験、人脈、特技
・関心ある社会課題、NPOの分野、ミッション、ビジョン
・活動可能な曜日、時間帯、時間、期間
・プロボノ活動に期待すること

☆NPOへのコンタクト
・興味のあるNPOに直接コンタクトする(HP、SNS、メール等)。
・中間支援団体からプロボノ募集情報を得る。
・プロボノマッチングサービス団体に登録。

☆事前にNPOとして確認すべきこと
・現在のリソース(人、物、金)を正確に。
・扱う社会課題、ミッション、ビジョン。
・現在の課題や悩み、将来の目標。
・プロボノに期待すること、求めるプロボノ像など。

☆プロボノの募集
・直接募集(HP、SNS、過去名乗り、データベース活用、説明会、カジュアルイベント開催、ソーシャル系イベントに参加)
・中間支援団体
・マッチングサービス

☆プロボノの受け入れに際し、時系列で確認すること
・氏名・志望理由など

・スキル・経験、ミッション・ビジョンへの共感度、大事にしている価値観など

・プロボノ活動への期待、共通の目標、具体的な役割など

・リーダーシップ、プレゼン能力など

☆プロボノに継続して活躍してもらうためには
・プロボノの自主性、価値観などを尊重する。
・活躍の場や交流の場を適宜提供する。
・活動のプロセスに対し、感謝し、評価し、承認する。
・様々な場で活動を紹介する。PRしてあげる。

□最後に小川さんのメッセージ
プロボノやプロボノ活用に踏み出して社会課題を解決しよう。

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実体験に即して進められたこの講座では、プロボノの世界に足を踏み入れ、今ではフリーランスのファンドレイザーとして活躍するに至る小川さんの半生の軌跡を垣間見ることができた。

具体例をふんだんに挙げることで、「プロボノの何たるか」が初心者にもわかりやすい丁寧な講座だった。

ただ、いまだ「プロボノ」という言葉及びその概念は、世間では知らない人の方が多数派だろう。

しかし、今回のような講座で情報発信をすることで確実に社会貢献の足場は固まっていく気がする。

「次に続け」とばかりに、「第2の小川さん」が今日のセミナー会場から出るかもしれない。

蛇足までに、セミナー後の打ち上げでの、氏の気さくな「お人柄」に魅了された中の一人に筆者も含まれていたことを補足しておく。

<スタッフ:高橋>

講師の小川氏
セミナーの様子