8月1日日曜日、さぽカフェ3回目のゲストは長門市油谷在住の井上義さん。
自給自足の宿「百姓庵」を営みながら、塩作りをしたり、農業をしたり、羊・アイガモを飼ったり、と「大地に根ざした暮らし」をしながら生活されています。
自らを「百姓」と名乗り、百姓とは「百の仕事(姓)」ができるひとであり、それは「百の宝」をつくるひと、と語る井上さん。百姓を志すきかっけとなった出来事や、現在の生活について話していただきました。
■百姓になろう!百姓という生き方にたどり着くまで
「自分の楽しいように生きていたらこうなった」と笑顔で語る井上さん。でもいくつかきっかけについてお話ししてくださいました。
食品関係の商社で営業マン時代、「食べ物」は「ただくさらなければいい食品」でした。口に入れて体の一部になるものであり、「生き物」であるはずの「食べ物」が「化学物質」であることに疑問感じたと言います。
「食品」を生み出す「農業」はどうかと見てみると、そこは効率や経済が優先され、工業化が進み、環境破壊が行われていることに気付きました。
また東京勤務時代、雨台風で電車が止まって線路沿いを歩いて帰宅する経験をし、自然に反する現代の都市は沢山の歯車が奇跡的にかみあい成り立っていると感じました。
そして自然農と出会い、「電気・ガス・水道」があってあたりまえの文明中毒社会から抜け出したい、自然と共にある大地に根ざした生活がしたい、と思うようになりました。
会社を退職後、数年の百姓経験ののち、24歳から3年間海外を旅しました。その中でも特に自然と一体の国ベトナムのメコンデルタに感動しました。
家の下に池があり、池の魚は残飯を餌に生活。
家の横には田んぼがあり、田んぼの虫を餌に鴨が生活。
家のまわりにはフルーツの実る木々がある。
鴨や魚は主食になる。
田んぼのお米はごはんになる。
フルーツはデザートになる。
お米とおかずが生活の中で手に入る社会を目にしました。お金を介さない・支配されない「まさに理想の生活」という井上さん。帰国後はこの最小単位の循環が実現されている、自給自足の生活を目指していくこととなります。
■「自他給楽足」のくらし
百姓になろうと決めたとき、テーマは「農・食・遊」生活をアートするライフアーティストをめざそうと思いました。
<自給自足力テスト>
お題「生きていくために必要なものを書き出してください。時間は5分です。」
こんな問いかけから参加者全員で個々にする自給自足力テストがはじまりました。
5分経過後、書き出したものを自己採点することとなました。採点は○△×の3通りです。
○自然環境・・・例)太陽・海・川
△自然環境の中から自給できるもの(江戸時代レベルのもの)
・・・例)食べるもの・着るもの・家・火・明かり・飲み水
×自給できない物(多給品)
○や△が少ない人・×が多い人ほど文明中毒度が高いということです。そして現代人(都市生活者)の多くは文明中毒で他給不足(他級して不満足な暮らし)に陥っているとのこと。
逆に○や△が多い人・×が少ない人ほど百姓向きだとのこと。百姓になることは△部分を自分で作る能力を高めることだそうです。
そうはいっても現代社会、全部自給しては難しい、、、
井上さんはこんな風に生活しています
できるだけ自給して
できないものは他給して = 「自他給楽足」の暮らし
バランスよく楽しく足りる暮らし
そして何かが欲しいとき、何かを得るためには
「廃品>中古品>新品」を「拾う・直す>もらう>借りる>買う」(>が優先順位の高い順)でどうやったら取得することができるか考えるということです。これは発展途上国も同じだとのこと。
また「自給力」を高めるということは、感謝する能力・満足する能力を高めることであり、そのことで人はより多くの幸せを感じ満ち足りた生活を送ることができると言うことです。
■今の暮らし
帰国後は長門市油谷町の向津具半島に移り住み自給自足を目指し生活しています。
自宅は築百年の古民家を2年かけて改装。
田んぼにはアイガモがいて除草と虫取りをしてくれます。
畑には多品種の農作物が育ちます。
家の外にはヤギがいて畑を除草して肥料を落としてくれます。そして乳もくれます。
家の近くには海があり捕った魚が食卓にのぼります。
メコンデルタの人々の営みのように、生活に必要な物をできるだけ自給しています。
井上さんは、次に何が必要か考えました。
「海」という文字は「さんずい・ひと・はは」という漢字の組み合わせでできています。人間の体と海は同じミネラルバランスでできています。命にとって大切なもの、人間にとって必要なものを考えたら「塩」にたどりつきました。
1週間県外の製塩施設で指導を受け、後は試行錯誤で油谷にあった塩作りを目指しました。装置は手作りです。自分でつくったものは自分でなおせるからです。エネルギーは天ぷら油と太陽と水と薪(間伐材と廃材)です。今までゴミになっていたもので塩が生み出されます。
海藻が多いところは山からの栄養も豊富であるためおいしい塩ができるといいます。沖、海藻のある海辺、ない海辺、では同じ塩を作っても味が違うとのこと。ここにも自然の恵みが生きています。
井上さんはワークショップを開催しており、田植えや稲刈り体験に人々が集まります。ワークショップでは田んぼに寝ころんで全身泥だらけになることもあります。
田んぼや畑の中で裸足で作業してみる、昼寝をすることで「体と土は同じもの=体はそこの自然環境そのもので、未来の自分とつながる」ことに気付くことができるそうです。
「お米は自分の未来の細胞である。ボクはお米を食べたらお米はボクの細胞になる。ボクがお米を作る=お米がボクを利用してお米を作るんだ。」身土不二の世界がそこにはあります。
また国内や海外から自給自足の暮らし・塩作りについて学びたい若者を受け入れています。ウーファーという、お金のやりとりなしで「食事・宿泊場所」と「力」そして「知識・経験」を交換するしくみです。現在までに20数名が井上さんの生き方について学びにやってきました。現在2名ほどが油谷に移り住んで生活しているとのこと。
<交流会・カフェタイム>
気が付けばあっという間に終了30分前、「百姓庵のおいしいレシピ」を囲いながら質問タイム&交流会がはじまりました。本日のメニューは3種。季節の色々野菜で作るケーキ「ケークサレ」、自然素材で作る「じゃがいもの豆乳スープ」、塩がアクセントの「ラッシー」です。
宿泊費は?カフェ営業しているのか?といった百姓庵に関する質問から、畑・肥料・農作物についてなど質問は多岐にわたりました。
「自給自足力テストをまわりの人と交換してみましょう」という井上さんの提案で周囲の人とテストを見せ合うと、驚き・納得・ため息、、、色々な感想がこぼれました。
2つの円卓を囲んでのさぽカフェでしたが、時間終了後は1つの円卓を囲んで参加者同士と井上さんの交流が続きました。
<感想>
井上さんの「自他給楽足の暮らし」は日々の生活に幸せや満足をより多く感じることができる生き方だなと感じました。
自分に振り返ってみると、夕食を手間暇かけて使ったとき、家族の「おいしいよ」という言葉が普段より特別に聞こえて幸せに感じることがあります。生活の一つ一つに手間暇愛情をかけることは、それは自分の満足と家族の笑顔を増やす贅沢なことなのだ、と知りました。
色々なものを自給することは今の自分にすぐはできなくても、まずは食卓の笑顔から増やしたいなと思いました。
市民広報記者 千々松